ロミアを庇うように割り込んだズオーの刀がディステルへ振り下ろされる。
それを寸前で避けたディステルは、氷のような瞳で彼等を睨みつけた。
「獄幻魔か。彼に創られた破壊の獣が、道具に情を移したとは。笑える話だ」
ディステルの体内から伸びる無数の龍が、牙を剥いてズオーへと襲い掛かる。
しかしそれらは標的に届く手前で、地面から生えた巨大な植物達に遮られた。
「姫様、ズオー様、ご無事ですかー!?」
「アーミルさん!」
ズオーの後ろに隠れていたロミアが歓喜の声を向ける。
広間に飛び込んできたのは、居城に辿り着いたばかりのアーミルだった。
「今まで何処に行っていたのですかアーミル!」
「怒らないでよスカーレット。これでもお姫様とズオー様の為に、急いで戻ってきたんだから」
笑いながらズオー達の側へと走るアーミル。
その後ろに続いてリクウも到着し、ディステルと対峙する。
「やはり鍵を手に入れようとしていたのですね。しかし諦めた方が良いのではありませんか? 貴方一人で獄幻魔達と戦うのは得策ではないでしょう。無論、僕は彼等の側に付きますよ」
リクウが龍筆を手にし、獄幻魔達もロミアを守ろうとそれぞれ戦闘態勢をとる。
しかしディステルは逃げる素振りも見せず、静かに彼等を見下した。
「確かに貴様の言う通り、ここは大人しく引き下がるのが賢明だろう。……ただしそれは、私が一人であったらという場合の話だがな」
「なっ……!?」
ディステルの言葉と同時に、リクウ達にとてつもない力の重圧が襲い掛かる。
全員が地面に倒れ伏し、身動きが取れない。
何とか首を動かしディステルへと視線を向けたリクウが目にしたのは、彼の隣で気を失ったロミアを抱えているラジョアの姿だった。
「姫様!」
(お姫様の側にはズオー様がいたはずなのに、いつの間に……!?)
スカーレットとアーミルは主の方へ顔を向け、愕然とする。
あの獄幻魔が地に膝をつき、身動きが取れなくなっていたのだ。
「所詮は創られた存在。私が手を下さずとも、創造主の意に添わぬ獣はいずれ排除されるだろう。それまで大人しく地に伏しているがいい」
そう吐き捨て、ディステル達は共にその場を去ろうとする。
ラジョアに抱えられながら、僅かに目を開けたロミアはぼやけた視界に映る父の姿に手を伸ばした。
「……お父……様……っ」
「ロ……ミア……グ、グォォ……ッ!!」
娘の声に、ズオーは重圧のかかる身体を無理矢理動かし、刀を振り上げる。
その殺気を感じ振り向いたラジョアを、執念をのせた刃が真正面から斬りつけた。
「……っ!?」
不意の一撃を受け、二、三歩背後へと後ずさる。
しかし万全の状態ではなかったズオーの攻撃は浅く、ラジョアの仮面に大きなヒビを入れた程度だった。
ヒビは仮面全体に広がり、パラパラと音を立てて砕けていく。
そこから現れた顔に、リクウは目を見開いた。
「……やはり……貴方、なのですか」
「……」
ラジョアは片手で自身の顔を覆うと、そのまま踵を返してディステルと共に広間を去ろうとする。
娘の手を掴もうとしたズオーも、さらに強い重圧がかけられ、手が届かない。
「待ってください! どうして貴方なのですか!? 何故こんな事を……。お願いです、答えてください!」
「……」
リクウが必死に叫びかける。
しかしラジョアは一度も彼に振り向く事無く、ロミアを連れ静かに姿を消した。
【関連モンスター】
しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)