威風堂々と姿を現したヴァレリアは、稲妻が迸る剣の切っ先をロシェに向ける。
「ようやく見つけたぞロシェ、よくない連中とつるんでいるようだな。久々に師の説教を受けたいとみえる。まず行方をくらませていた間の出来事から話してもらおうか。親友のプラリネに殺意を向けている理由もだ」
鋭い師の言葉にロシェは酷く気分を害した様子で、袖で口元を隠し眉を寄せた。
「アタシに指図しないでよ教官サマ。アンタは昔からそうだわ。いつもアタシとプラリネの楽しいひと時を潰して、力任せの鍛錬ばかりさせてきたお邪魔ムシ」
ギリギリと歯を噛みしめ、ロシェの表情が憎悪に染まる。
「あーあ、テンション下がっちゃった。もういいわ、お楽しみはまた今度にするから。今日はお邪魔ムシの排除だけでおしまいにしてあげる」
ロシェは手にしていた鋏で空間を切り裂き、無数の生物を召喚した。
金きり声を上げて蠢くそれらに、ロシェは恍惚とした笑みを向ける。
「クフフ、気高い勇猛な教官サマ。アタシの可愛いお人形さんにたくさん遊んでもらえばいいわ」
ロシェの言葉と共に、生物たちが一斉にヴァレリアへと飛び掛かる。
しかしそれらは標的に触れることなく、二振りの剣と銃弾によって薙ぎ払われた。
「教官に手出しはさせないぞ!」
師を護るようにして、控えていた三人の弟子たちが前に出る。
頼もしい彼等に、ヴァレリアはカラリと笑ってみせた。
「なんだ、お前達も暴れたかったのか? だがここは私一人で十分だぞ」
「アンタはスイッチ入ると周りの状況お構いなしに暴れるでしょ。じっとしててくださいよっ!」
「えぇー少しくらい良いだろう。なぁミラ、私も戦いたいぞ」
「ダメです。ここはあたし達に任せてください……あ、教官! もう大人しくしててくださいってば!」
賑やかな会話を繰り広げながらも、ヴァレリアと弟子たちはロシェが召喚した敵を倒していく。
そんな中、プラリネはグライザーと共にその頭上を飛び抜けた。
「待って、教えてよロシェ! ボクの知ってるロシェじゃないって、どういうこと!」
鋏で切りとった空間の中に姿を消そうとしていたロシェは、彼女の言葉にニヤリと妖艶な笑みを浮かべてみせる。
「可愛いプラリネ、アタシはアンタが大好きだったわ。誰よりも“いちばん”だった。でも、アンタはそうじゃなかったでしょう? あの人はアタシをいちばんにしてくれるって言ったのよ。クフ、フフフフッ。だからねプラリネ」
今のアタシは、あの人のためにいらないモノを処分する裁断者。
その言葉を残して、ロシェはその場から姿を消した。
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スオウからリューネとシルヴィに、それぞれ手渡された龍玉。
その中に込められた力を感じ取り、トアとクァージェが反応を見せた。
『おいシルヴィ、その龍玉をテメェの翼で覆え』
『我ガ青キ契約者ヨ 還爪ヲ玉ニカザセ』
二体の呼びかけに、リューネとシルヴィは戸惑いながらも言う通りにする。
すると、彼女達の魂に呼応して龍玉の力が二人へ流れ始めた。
その様子を満足気に眺めていたスオウへ、リクウは恐る恐る声をかける。
「……お、お久しぶりですスオウ殿」
「おうリクウ、さっきはよくもオレに”誰ですか”なんてナメた口きいたな? とりあえず一発」
「痛い!」
ベシッとキセルで一撃を喰らい、リクウはヒリヒリ痛む頭を擦りながら涙目でにらむ。
「貴方の幼子姿は見たことが無かったんですから、わからないに決まっているじゃないですか!」
「うるせぇ、気合で察しろ」
「理不尽!」
妙に威圧的な笑顔の彼にこれ以上言ってもまたキセルを見舞われるだけだと、リクウはため息を吐いて話を戻す。
「……で、なぜ貴方が届け物などしているんですか」
「ああ、龍王達に頼まれてな。大事な娘っ子に力を貸したいんだそうだ」
そう言って龍玉の力を受け入れている二人を眺めながら、スオウは彼女達の龍王を思い浮かべる。
意志を尊重し静かにリューネを見守ってきたヴォルスーン。
シルヴィを愛し自由を与えたリンシア。
本来、龍王は世界のバランスを維持する為だけに力を尽し、それ以外の事象に力を使うことも、何者かに情をかけることも許されない。それでも。
「世界の安定より身内の助けになりたいっていうんだから、龍王も随分と感情豊かになったもんだよなぁ」
「……そうですか」
(不変だった龍王の心も、変化してきているということなのでしょうか……)
その心が彼女達にどのような未来をもたらすのだろう。
リクウは目を細め、新たな力を得ようとしている二人を見つめた。
【関連モンスター】
しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)