ロミア救出のため、ズオー達は天城を進んだ先で見つけた部屋の扉を開く。
「クフ、クフフ。いらっしゃぁい黒ニャンコ」
そこで待っていたのは歪んだ笑みを浮かべたロシェだった。
彼女の膝に乗せられた檻がガツンガツンと音を立てて暴れている。
「クフフッ、プチ黒ニャンコの気配を追って来たんでしょう? でも残念、お姫様はここにはいないの。だから代わりにアタシと遊びましょう、黒ニャンコ」
ぬいぐるみを使ってズオー達を誘い出したロシェは、愉しげに口角を上げて背後にいくつもの魔物を召喚する。
奥へと進む扉はロシェの背後。ここを突破しなければ先へは進めない。
ズオーは漆黒の刀に手をかける。
しかしそんな主を制するように、スカーレットとアーミルが敵の前へ躍り出た。
「申し訳ありませんが、ズオー様は急いでおられるのです。ですので」
「遊び相手は僕達で我慢してくれないかな?」
二人の申し出に、ロシェはおかしそうに声を上げる。
「クフッ、フフフッ! ステキなお友達ね。でもダァメ。アタシがズタズタにして遊びたいのは黒ニャンコなんだから」
彼女の魔物たちが一斉にズオーへと飛び掛かる。けれどそれらは標的に触れる前に、アーミルの巨大な蔦が絡め取り、スカーレットの魔獣によってかみ砕かれた。
「我等はズオー様の配下。主と姫様のために力を尽しましょう」
「ここは僕達にまかせて、先に進んでくださいよ」
その言葉を聞いたズオーは頷くように瞳を閉じると、二人が魔物を押え込む中、部屋の扉へと突き進む。
「逃げちゃだめだってば、黒ニャンコ!」
標的の動きに顔をしかめたロシェが無数の黒棘をズオーへと放つけれど、二人はそれを見逃さず、植物と魔獣を使い防ぎきった。
「しつこい子は嫌われるよ?」
「貴方のお相手は、私達です」
ズオーを先へと送り、敵の前に立ち塞がるアーミルとスカーレット。
そんな二人に、ロシェは小さくため息を漏らす。
「あーあ、アンタ達のせいで黒ニャンコがまた逃げちゃった。あんまり遊んでるとディスのお小言が始まっちゃうから、はやく追いかけないと」
「あら、そう焦らずともよろしいでしょう。のんびりお付き合いくださいな!」
にっこりと微笑みながら、スカーレットが魔獣をけしかける。
襲い掛かる獣の爪をヒラヒラと遊び感覚で避けるロシェ。
そんな彼女の身体をアーミルの蔦が捕えた。
「君も僕のところへおいでよ」
蔦が絡め取った標的をアーミルの方へ引き寄せ、その隙を逃さず魔獣が牙を剥く。
しかしロシェは笑みを浮かべたまま布を裂くように蔦を切り刻むと、空中に召喚した無数の黒棘で魔獣と二人を貫いた。
「ぐ……ッ」
「クフフ、黒ニャンコのためにボロボロになってカワイソウ。大人しくニャンコの影に隠れてればよかったのに。そうすればもう少し生き延びられたんじゃないの」
地に伏す二人の近くに寄り、見下しながら嘲る。
そんな彼女に、スカーレットは倒れながらも小さく笑みをこぼした。
「貴方に憐れんで頂く必要など……ありませんわ。私達はズオー様の側に仕える事を許された者……。あのかたの望みを叶えるのが、私達の役目です。……ですから」
スカーレットの言葉が途切れると同時に、ぴくりとアーミルが人差し指を動かす。
その瞬間、三人の地面が大きく割れ、真下から巨大な植物が口を開けた。
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突如地面を割って出現した巨大な植物。それはアーミルが召喚した悪魔の植物だった。
「……ッ!?」
飛び退こうとするロシェの手足を、長い蔓が縛り付け引き寄せる。
先ほどのように千切ろうとするが、蔓はびくともせずに彼女の自由を奪っていった。
身動きが取れないロシェと共に、力を使い切ったアーミルとスカーレットも植物の口へと落ちていく。
「オイ止めロ! それじゃオマエラまで喰われちまうゾ!?」
閉じ込められたまま放置されていたズオーのぬいぐるみが、ガシャガシャと音を立てながら叫んだ。
「……ふぅん。主の敵を討つためなら自らを犠牲にしても本望ってこと? バッカじゃないの」
意味がわらないと嘲笑うロシェに、二人は小さく笑みを浮かべて彼女を見やる。
「そうですね……。でもこれでズオー様が姫様を救出する為の力となれるなら、私達はそれで良いのです」
「まぁきっと……君には一生理解できない事だろうけどね」
二人が満足げにそう答えた瞬間。
三人を呑み込むようにして、植物の口がぱくりと閉じた。
荒れ果てた部屋に静寂が戻る。
割れた地面には、彼等を呑み込んだ植物が静かに佇んでいた。
「……最ッ低」
静まりかえった部屋に、ピシリと小さな音が響く。
その音と共に、植物のいたるところに切れ目が入り込んでいく。
そして次の瞬間、巨大な植物はまるで紙くずのように内側から切り刻まれた。
「はー、気持ち悪かったぁ」
ボロボロに裂かれた葉の中から姿を見せたロシェは、酷く不快そうに顔をしかめながら己と同じく細切れになった植物から解放されたスカーレットとアーミルを睨み付ける。
「……クフフ、せっかく頑張ったのに残念でした。やっぱりアンタ達じゃ、役不足だったってことね」
苛立つロシェの声を、二人は朦朧とする意識の中で聞いていた。
(あーあ……これで僕等もお終いかな)
(……でも、時間稼ぎは十分できましたわ)
指ひとつ動かすこともできない身体に苦笑しながら、スカーレットは満足そうに笑みを浮かべる。
「……そうやって最後に笑えるなんて、ホント意味がわかんない」
その笑みを、ロシェの黒棘が貫こうとしたその瞬間。
二人の身体が一陣の風に攫われた。
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しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)