窮地のアーミルとスカーレットを救い出したのはプラリネとヴァレリア達だった。
「龍喚士……? 何で僕等を」
「主君のために身命を賭して戦ったお前達の心意気が気に入ったのでな、手を出させて貰った」
「まったく、敵なんだから助けちゃいけないってのに……」
「そう怒るなリエト、教官らしいじゃないか」
「ほら文句言ってないで、アンタ達も戦闘準備しなさいよ」
背後でボソボソと話す弟子三人を横目に、ヴァレリアは茫然とする二人に笑みを見せる。
「不肖の弟子が迷惑をかけたようで悪かったな。ここからは私達に譲ってもらえるか。こちらにも彼女に用のある者がいてな」
そう言って、彼女はかつての弟子たちの方に視線を移す。
ヴァレリア達から少し離れた場所で、プラリネはいつもの明るい笑みを引っ込め、ロシェの前に佇んでいた。
「追いついたよ、ロシェ」
「なぁに、教官サマの手を借りてアタシを追いかけてきたの?」
「そうだよ。ボクは君とお話したいことがたくさんあるんだ」
「クフ……クフフフフ! 嬉しいわぁプラリネ。今アンタの頭の中、アタシでいっぱいでしょう。そんなアンタをこの手でズタズタにできるなんて最高だわ」
愉快そうに口の端を上げたロシェは、地に描いた魔法陣から異形の魔物を出現させる。
「待ってロシェ、ボクは戦いに来たんじゃないよ、お話をしにきたんだ!」
「だぁめ。待ってあげない。可愛いアタシのプラリネ、まずはお人形遊びをしましょうよ!」
甲高い呻き声を上げながら魔物達が迫り来る。
しかしそれらは、プラリネの背後から繰り出された斬撃によって阻まれた。
「それほど人形遊びがしたいのなら、私達が付き合ってやろう」
ヴァレリアとその弟子たちが各々の武器を構えて前に出た。
その光景に、ロシェが忌々しそうに舌打ちする。
「相変わらず暑苦しい教官サマね。またアタシの邪魔をするつもり?」
「心配しなくとも、私達はプラリネがお前とちゃんと話ができるよう、余計なものを排除するだけだ。そうしてほしいと彼女に頼まれたからな」
魔法陣から湧き出る魔物を炎と雷を纏った剣で薙ぎ払いながら、ヴァレリアはプラリネの方へ顔を向ける。
彼女は余所見をすることなく、真剣な表情でロシェを見据えた。
「……ボクはちゃんと知りたいんだ。どうして君が、ボクを憎むようになったのかを」
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ヴァレリア達が魔物を相手取る中。ロシェは楽しげに笑い、無数の黒棘を放った。
それを避けるようにグライザーで飛びながら、プラリネが声を上げる。
「君は言ったよね。“あの人はアタシをいちばんにしてくれる”って!」
「ええそうよ。アンタに置き去りにされたアタシを、あの人はいちばんにしてくれるって言ったわ。だからアタシは、彼のために邪魔なものを全部排除するのよ」
“置き去りにされた”
彼女の言葉に、プラリネがわずかに動揺を見せる。
その隙を逃さず、ロシェは地面からさらに大きな棘を出現させた。
『グッ……』
「グライザー!?」
翼を貫かれ、グライザーが短い呻き声を上げる。
相棒を助けようとプラリネが手を伸ばすが、その前にロシェが飛び掛かり黒刃で彼女を地面へと縫い付けた。
それでも身動きが取れなくなったプラリネは己の真上で笑うロシェから目を離さない。
そんな彼女の首に己の黒刃を突き付けながら、ロシェはそっと目を細める。
「クフフ、可愛いプラリネ。今からアンタを綺麗に引き裂いてあげる」
「……ボクは君に、そこまで憎まれるようなことをしてしまったの?」
「……そうね、アンタとのお話もこれが最後だから教えてあげるわ」
プラリネの悲痛な表情にロシェは少しだけ沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇプラリネ。アンタはアタシの唯一、初めてできた、たったひとりの大切なオトモダチ。だからアタシはアンタにも、同じ気持ちでいてほしかったのよ。でもアンタは、そうじゃなかったでしょう?」
「そんなことないっ! ボクだって君が大好きで」
「嘘!」
プラリネの言葉を、怒気のこもった強い声が否定する。
「嘘じゃない、ホントだよ!」
「嘘。嘘。嘘。だって、ねぇ、プラリネ」
それならどうして、あの時アタシを置いて行っちゃったの?
泣きそうな顔をして笑うロシェに、プラリネが目を見開く。
「……だからアタシもアンタを捨てて、アタシを“いちばん”にしてくれる人にすがったのよ」
ロシェは黒刃を持つ手を、ぐっと前に押し出した。
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しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)