ロミアが連れ去られた後。
広間に重苦しい空気が漂う中、アーミルは慌ててリクウに掴みかかると、身体を勢いよく揺らしながら問いただした。
「ちょっと君、あの連中と知り合いなんだよね!? あの得体の知れない奴何なのさ!? お姫様どこに連れてったの!?」
「ウェェェ止めて目が回る揺らさないで! か、彼等の行先なら多分わかりますから!」
リクウはなんとか腕を振りほどき、小さく息を吐いて彼等へと向き直る。
「ディステルの狙いは彼女の持つ鍵の力で閉じられた空間を開き、『完全なる魔導書』を使ってこの世界から龍を排除する事。彼等はこれらを同時に行う為に、創書の悪魔であるイルムの天城へ向かったはずです」
イルムという名に、ズオーがピクリと反応を見せた。
大きな身体をゆっくりと起こし、握りしめていた黒刃の切っ先をリクウへと向ける。
「何故、龍契士が我等に協力する」
「……僕はディステル達を止めたいのです。ロミアさんを取り戻したい貴方がたと利害は一致しているはずでしょう」
視線をそらす事なく交渉を持ちかけてくる彼に、ズオーは静かに刀をおさめ控えていたスカーレット達に命を下す。
「ロミアを連れ戻す」
「御意。全てズオー様の御心のままに」
獄幻魔達が動き出す様を眺めながら、リクウはその場で龍筆を走らせいくつかの手紙を折鶴にして空へ飛ばす。
「間に合えばいいのですが……」
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天城の薄暗い通路で6号は頭を抱えうずくまっていた。
ガディウスに魔浄の左手で殴られてから、見た事のない映像が脳裏を駆け巡る。
締め付けられるような痛みが襲い、息を荒げながら呻く彼の耳に何者かの声が響く。
『…ゥラ……オマエハ……彼女ノ……』
今まで言葉を発さなかった契約龍ヴァンドだった。
声が聞こえるたび、6号は知らない記憶と自分でも分からない感情に襲われる。
「モウ……嫌ダ……」
混乱の中で悲痛な声が零れた、その時。
6号の目前の通路が大きな音を立てて破壊された。
「フフ、フフフ。ターゲット、発見しました」
通路の壁に空いた大きな穴。
そこから現れたのは、龍覚印奪還を命じられたイデアルだった。
「これより任務を開始します」
攻撃を跳び避け態勢を立て直した6号は、目の前で不穏な笑みを浮かべる彼女の顔に、無意識に目を見開いた。
「フフ、アハハ!」
繰り出される攻撃を避けられず、真正面から受け身体が吹っ飛ぶ。
彼女の顔を見た瞬間から、何故か龍腕が動かない。
応戦しようと見る度に心がざわつき、苦しくなっていく。
動揺がやまない6号の耳に、またヴァンドの声が響いた。
『ヤメロ……オマエタチハ……』
「ウルサイ……ッ! ウルサイ、ウルサイ、黙レ!!」
ヴァンドに叫び、6号は動かない腕を無理矢理イデアルへ振り当てようとする。
それに対抗するように、彼女も術を発動しようと杖を掲げた。
二人の力がぶつかり合う、その瞬間。
『ヤメロ……ヤメテクレ……ゥラ、イデアル!』
ヴァンドの悲痛な叫びに、ピタリと二人の動きが止まった。
龍が発した、知らないはずの二つの名前。
6号の脳裏に、膨大な記憶が一気にフラッシュバックする。
本に囲まれた館。小さな龍達。慌ててばかりの少女。それを静かに見守る巨大な龍。暖かな場所。溢れる笑顔。走る痛み。壊れた部屋。龍の咆哮。誰かの嘲笑。伸ばした手。
自分の目の前で涙を流す、ひとりの……。
「ウアアァアアァァァッッ!!!」
流れ込む映像全てにのまれるように、6号は我を失った。
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しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)