キリにリィを連れ去られた後。
深い傷で動けずにいたティフォンとラシオスの前にニースが現れた。
直属部隊を再集結させるために奔走していた彼女は、道中でシャゼルを拾い、ラシオスの気配を探してここまでたどり着いたらしい。
「申し訳ありません、隊長……。任務を遂行できませんでした」
「そうか……気にするな。今は傷を癒せ」
頭をそっと撫で、ニースは彼女やティフォンと今までの経緯を共有する。
「アタシがモルムちゃんを追いかけてる間に、随分と面倒なことになってたのねぇ」
二人に治癒術を施しながら事の次第を聞いていたシャゼルは、自分を置いて笑顔で飛び去ったクーリアを思い出してわなわなと拳を握りしめる。
「この世で一番可愛いドラゴンちゃん達を消すなんて絶対許せないわ! あの小娘とその仲間を倒して、はやくモルムちゃんを解放してあげなくちゃ!」
「シャゼルとラシオス、それに道中で会ったヴェルドの報告から、既に第七、第八の天、第九の龍覚印は天城へ届けられたと考えるべきだろうな……。残る印は2つだが」
「そこに第八の海も加えておくとよいわ」
聞き覚えのある少し気だるげな声に、考え込んでいたニースが顔を上げた。
「エンラ! 今まで何処に……いや、それよりその傷は」
驚く彼女を前に、エンラは口角を上げて気にするなと笑って見せる。
「万全とは言えぬが、術でおおよそ回復しておる。それよりもラシオス、お前が遭遇した龍契士とは、暴食の龍を手に宿した者ではなかったかえ?」
その問いかけにラシオスが頷くと、彼女はやれやれとため息を漏らす。
「妾に傷を負わせたのもそやつじゃ。天城へ戻ったというのなら、第八の龍覚印・海も敵の手におちたと考えて間違いないじゃろう」
「そうか……。残る第五の龍覚印はイデアルが追っているが、敵の動きを見るにあまり期待はできないだろう。いよいよ時間が無くなってきたな」
その場の全員に焦りが滲む。
そんな重苦しい空気を、パンッと手のひらを叩く音がかき消した。
「重い! 重いわよアンタたち!」
「シャゼル……」
「どんよりムードになったって仕方がないでしょ。焦ったって何にもならないんだから、今は回復に専念なさいよ。難しい相談はそれから! わかったかしら!?」
全員が呆気にとられる中びしっと言い放つシャゼルに、ニースは肩に入りすぎていた力を抜いてくすりとほほ笑んだ。
「……そうだな。少し休んで、それから次を考えよう」
【関連モンスター】
しっかり予習するんだズオ(`・ω・´)